何かを始める時に、年齢を理由に諦めたりしていませんか?
もう年だから、そんなの無理。
もっと若かったら、できたんだけど。
しかし、そんな戯言は、この本の主人公の前では通用しません。
なぜなら、この本に登場する小柄な女性は、齢89歳でありながら、ベンチプレスの世界チャンピオンなのだから。
しかも、若かりし頃からやっていたわけでは無く(むしろ学生時代は戦中)、何と72歳からベンチプレスを始め、そこから世界の頂点まで登りつめた努力の達人なのです。
さらに、本の中では、大会直前に脳梗塞で倒れ、その直後にご主人に先立たれると言った辛い不幸に見舞われてしまいます。
そんな人生のどん底から、自身の努力と周囲の支えによって、不死鳥のように復活する彼女のドラマが描かれています。
また、彼女の学生時代は戦時中であり、自分が経験した戦争での苦労や爆撃にあった悲惨な風景が生々しく語られています。
そんな中を生き抜いてきた彼女の『人生なんだってできるのよ』という言葉は、バーベルよりも重く心にのし掛かって来るのです。
この本を読めば、新しい挑戦に尻込みしてしまう弱気な心に、最初の一歩を踏み出すための、強い勇気を与えてくれます。
物語のはじまり
彼女が72歳でベンチプレスをやり始めたきっかけは、交通事故が原因だったとのこと。
事故でご主人も怪我をされて、リハビリのためジムに通い始め、そこに一緒に付いて行ってたわけです。
そこで、あまりに楽しそうにベンチプレスをするご主人に触発されて、ふと彼女自身もベンチに寝そべり、バーベルを握ったことからこの物語は始まります。
そこから、ベンチプレスの楽しさに気づき、のめり込んでいく姿が書かれています。
ただ楽しいだけではなく、自身の病気や大切な人との別れなど色々な苦難を乗り越えて、世界の舞台に羽ばたいていくのです。
自分にやる気と活力があれば、72歳からでも成長できるわけです。
本の中で自分のことを「私は普通のおばあちゃんです」と言われています。
読んでいても分かりますが、彼女は何も特別な人間ではありません。
ただ、楽しいことにひたむきに取り組み、諦めなければ、目標に向かって着実に進み続けれるのだなと感じることができます。
89歳チャンピオンの生活
本の中では筋肉を保つための食事についても書かれています。
自分の体重や血圧を毎日しっかりと把握しながら、栄養バランスに気をつけて必ず自炊されてるとのこと。
また、普通の人はテレビなどでアレが良い、コレが良いと言われるとその情報に翻弄されがちです。
しかし彼女は、人の体は皆んな同じじゃないのだからと自身の哲学に従うことで、テレビの情報に惑わされるようなことは無いようです。
そんなことよりも、自分が今食べたいと思う物を、適量食べることの方が体にとって必要と言われています。
それこそが、本当に自分の体が欲しているものであり、体からのサインなのだからと。
普段から体の声を聞くことで、自分にとって必要な物、不要な物をしっかりと考えて選択されているのです。
「私の食事の基本は、「食べたいものを食べる」です。ただ、これは私の考えで、良いか悪いかは分からないです。でも、食べたいと思うということは、きっと体が要求しているんですよね。体が要求しているのだから、食べたいものを食べれば栄養になるだろうと思っているわけです。だから、テレビで、あれが良い、これが良いって紹介しますけれども、私の考えは、人間は十人十色。体も人それぞれ同じじゃないよっていう感覚です。」
—『89歳、人生なんだってできるのよ! -マスターズベンチプレス世界チャンピオンが語る 人生100年時代を楽しく生きる秘訣-』奥村正子著
人生の生き方が分かる
この本では、89年生きてきた彼女から、人生の生き方も学ぶことができます。
どのような暮らしをすることで体力を保ち、どのように考えて行動すれば精神までも若々しく居られるのか。
そのヒントは、小さな目標を見つけること。
今日という日を楽しく過ごせるようになり、明日が来ることをワクワクしながら待てるようになります。
毎日をただ過ぎ去るように生きるのではなく、常に自分の頭で考えながら、目標に向かって努力と挑戦を繰り返しています。
その原動力になっているのは、学生時代の悲惨な戦争体験であり、周りの人への感謝でもあります。
彼女のベンチプレス前のルーティンに、右の胸を3回叩くと言ったものがあるそうです。
その3つにはそれぞれ3種類の感謝があり、その感謝からもまたパワーをもらえるそうです。
「そういうこともあって、私は試合に臨む時に右の拳で胸を三つ叩くんです。まず一つ目は、今日までのこの元気でいられる体を生んでくれた亡き父と母に感謝。2つ目は、亡き主人と息子に感謝。3つ目は、会長さんをはじめとしたジムの皆さんやお医者さんなど私を支えてくれている周りの全ての皆さんに感謝。「有難う!」の想いを込めて胸を三つ叩くの。これが試合に臨む時の私のルーティンなんです。その感謝の想いが、私に力をくれる。「よし! やるぞ!」っていう気持ちになるの。」
—『89歳、人生なんだってできるのよ! -マスターズベンチプレス世界チャンピオンが語る 人生100年時代を楽しく生きる秘訣-』奥村正子著
読んだ感想
率直に、この本に出会って良かったです。
普段は本と言えば、トレーニング理論や筋発達のメカニズムに関する本ばかり読んでいました。
この本も、ベンチプレスのやり方をもっと詳しく知ろうと色々探してた時に目に入ったわけです。
はじめにサンプルだけ読んで他の本を見てたのですが、どうしても続きが気になって買いました。
実際に読んでみると、この本にはベンチプレスのやり方どころではなく、人生の生き方が書かれていたんです。
しかもそれが、89年間生き抜いてきた中での様々な経験から書かれており、ひたすらに頷いてしまうことばかり。
所々に出てくる彼女のは考え方や言葉は、本当に明るく爽快で元気をくれます。
今回のコロナの騒動で、本の中に書かれた彼女の人生プランは大幅に変更になったと思います。
しかし、それでも彼女は負けることなく、自分の目標に向かって、ちから強く生きていると思いますし、そうであることを願っています。